2023年2月3日金曜日

主催者や参加者の満足度を上げるために 「なぜSDGsの視点が必要なのか?」(上)

MICE JAPAN2月号に寄稿しました

長文ですがお読み頂ければ幸いです

株式会社プリプレス・センター 代表取締役 藤田靖

(グリーン購入ネットワーク代表理事 他)

近年SDGsの普及とともにMICEにおいてもサステナビリティが叫ばれるようになりました。この度は紙面をお借りして、新MICE必要論として主催者が求めるもの、開催地が準備すべき取り組みを整理し、MICEが開催される意義を考えます。また、後半では主催者や参加者の満足度を上げるために、開催地や施設、MICE関係者が取り組むべきサステナビリティについてSDGsの視点で考えます。

ーーー新 MICE必要論 時代と共に価値観は変化していますーーー

MICEとは人と人が出会い、目的を有したBtoB産業です。しかし、そこには多様な価値観の変化があります

●生きる目的・幸せとは何か?

 日本は戦後、経済的な回復を目指し経済的な成功を収めることが幸せであるといった考え方が大半を占め、人々の幸せの物差しは「物質的な豊かさ」を追い求めることでした。しかし、社会や個人の価値観が多様化し、時代は「物質的な豊かさ」から「心の豊かさ」へとシフトしていきます。では、人は誰のために生きて、なぜ幸せを求めるのか?自分(個人)のため、家族のため、会社のため、社会のため、次世代のためと対象は様々です。人は「心の豊かさ」が満たされたときに幸せを感じます。対象が個人・家族から会社、会社から社会、そして世界へと、より範囲が広がるほど、理想的な世の中になるはずです。

 中でも多くの人々が共感して求める幸せの対象に「Universe」があります。世界、万物、生きとし生けるもの、誰もが幸せになる権利があり、現在価値を損なうことなく次世代に引き継がなければなりません。この考え方こそまさしくサステナビリティの基本であり、SDGsが目指すところです。

●生きる目的・幸せを獲得するために人はどう行動するか?

 多くの人は社会で働き、その所属する団体やコミュニティにおいて労働やコミュニケーションを通して幸せを探求します

また、個人においては書物やマスコミ、インターネットから情報を得て知を得ます。ここで仮に自己が積み上げた経験をEXP(Experience)とします。しかし、このEXPにはいくつかの課題が横たわります。

・多くの人々は、所属するコミュニティはローカルで小規模が多く、グローバルな視点やマクロ的な思考、最新の潮流や未来像などが不足することが多い。

・書物やマスコミ、インターネットからの情報は平面的であり、インタラクティブな意見交換が少なく、多くの人々は(自己に都合のよい)自分が入手したい情報を優先して求めるので、未知の思考、自分には否定的・ネガティブな思考を入手しにくい。よって自分の存在価値を確認・修正する機会が多くない。

これらの課題を解決するために、人と人が出会うMICEの開催を通して、未知や予想外の経験 UEX(UnknownあるいはUnexpected Experience)が得ることが必要です。

ーーー人々の視野を広げ、社会的な役割を果たすMICE。課題を解決するMICEの新しい役割ーーー

この30年、MICEを誘致する主な目的は「経済効果」のためと位置づけられていました。しかし、SDGsの登場以来、MICEは社会的な課題を解決する手法の一つとして評価されるようになります。MICEの第一人者であったMPI JAPAN CHAPTER故浅井新介名誉会長は、「MICEは未来を担保する」と名言を残しました。経済効果のみならず、経済価値以外の見えない価値=新たなMICEの開催価値を予言しています。前述した経験に基づくEXPは、経済的な経験の積み重ね(物質的な豊かさを求めた結果得られた経験)と仮定すれば、新たなMICEへの参加価値は未知の経験 UEXを得ることと仮定できます。MICEの参加者は、他者から影響を受け、その結果EXPとUEXの間にギャップ(差分)が生じます。このギャップこそがMICEに参加する意義であり、モチベーションの原動力、新たな未来へのチャレンジへ、ひいては心の豊かさへと発展します。ここでギャップが生じた値をMICEによる参加で得た価値と同等と考え、MPV(MICE Participant Value)としましょう。これを式に表す(A)と、

 MPV = UEX – EXPとなります。

(MICE参加者が得た価値)=(未知や予想外の経験)―(それまで自己が積み上げた経験)

 Face to Faceで人と人が交流し語り合うことは、思考と思考のバトルであり、自己の存在価値を見直し、時には感動し、時には反論し、 UEX とEXPのGAPを生み出します。リアル開催のMICEは、オンライン会議よりもGAPの量を遥かにしのぐでしょう。

また、MPVには別の考察があります。MICEを開催する主催者が効果的なMICEを開催することでもたらす直接効果と、開催地として会場やホテル、飲食、ユニークベニューなど主催者の側面的サポートをした結果もたらす、間接効果に区別することができます。

これを式に表す(B)と、

 MPV =主催者等がもたらす直接効果+開催地が提供する間接効果 となります。

上記の(A)(B)2つの式から導かれる結論は、MICEの参加者に多くのGAP体験を与えることが効果的であり、そのためには主催者と協力し、開催地がもたらす間接効果を最大にすることが望ましいといえます。

ーーー開催地は間接効果の最大化に取り組むーーー

 MPV(MICEによる参加で得た価値)及び開催地としてもたらす間接効果を最大にするために、開催地におけるCVB,PCO、施設、ホテル等は、主催者の満足度を上げるために下記の7つのi-ポイントに着目し、主体ごとに効率のよい運営を実践し主催者を成功に導くことが望ましいと考えます。

1  Interest → 主催者や参加者にわかりやすい興味や関心を与える。

2  Inspire → アイディアにつながるような効果的な気づき・啓発を考える。 

3  Involve → ローカルなステークホルダーやパートナーシップ、参加者を巻き込む取り組みを実践する。

4  Invest → 主催者・参加者、開催地などローカルのために投資(寄付等を含む)する。

5  Innovate → (アウトプットが伴うような)さらに上を目指した改善・改革を目指す。

6  Incentive → 効果のあった主催者、ステークホルダー等を評価、表彰、報奨等する。

7  Inform → 上記のベストプラクティスを内外に広く告知する。

次に、間接効果を高めるために下記のような取り組みを目指します

<その1>参加者向け地域コンテンツを豊富に用意する

地域のコンテンツが有効な働きをします。参加者は地域を訪れ、普段とは異なる非日常・異文化の体験をし、様々な経験を重ねます。

そのため、次のことを提供することで効果は向上します。

・地域ならではの歴史や文化、食など

・施設やホテルの快適、非日常空間、あるいはユニークベニュー

・ローカルな人々との交流・おもてなし

・多種多様なサステナブル・メニュー

<その2>直接効果と間接効果のバランスを考察する。

主催者がもたらす直接効果は、主催者の企画・運営・開催内容などによって大きく左右されます。検証ができないため、あくまでも私の個人的な経験から得られる考察ですが、

・直接効果が小さければ小さいほど、参加者は物足りなさから開催地の間接効果を期待するようになります。この場合、直接効果と間接効果は加除の合計(X)となり、直接効果の内容が乏しい場合、マイナスの結果となることもあります。また、

・直接効果が大きければ大きいほど、参加者は開催地の間接効果をさらに大きく感じます。この場合、直接効果と間接効果は掛け算の合計(Y)となり、直接効果で得られた高いモチベーションが持続し、開催地の様々な工夫がさらに効果を発揮します。

<その3>主催者は、より開催効果を高めるために、開催地の様々な努力を期待している

主催者は、参加者が期待するMPVを最大にするために(X)よりも(Y)を目指し、様々な企画や運営を実践し、MICEの成功を期待します。ここで改めて主催者が期待する間接効果を整理すると以下の3点となります。

・物質的豊かさを基本とした効果(開催地の快適さ・・・ベニュー・食等)

・心の豊かさを基本とした人間的効果(おもてなし・ホスピタリティ・ボランティア・地域との交流等)

・物質的豊かさと心の豊かさなどがミックスした思考的影響(7iなど)

思考的影響について主催者が近年注目しているのがサステナビリティへの取組みです。サステナビリティの本質は、できるだけ物質的環境負荷を最小化し、得られる効果を最大にすることを目指しているのです。その理由は、次世代や未来を損なうことなく継承することがサステナビリティやSDGsの重要なテーマだからです。近年、主催者はBIDなど企画書にサステナビリティの提案を求める傾向がありますが、日本国内では具体的な事例が少なく諸外国に遅れをとっています。特に、サステナビリティに関する定性的な提案は出来ても、定量的な取り組みは皆無に近い状況です。これらの課題を解決する一つの案として、サステナビリティ都市の国際指標である「GDS-Index」の認証取得について、開催地が地域のサプライヤーと連携し取得する動きを今後期待しています。

ーーーまとめーーー

間接効果が高まった結果、主催者や参加者の満足度が高まれば、開催地や施設、MICE関連のサプライヤーの評価も併せて向上し、MICE関係者の売上や働く社員の満足度が向上します。また、さらにレベルアップを目指し新たな投資や教育、チャレンジを創出する経済と社会の好循環が生まれ、開催地としてwin-winの連鎖を創出します。これこそがまさにサステナブルな循環です。

最後に、観光庁桃井参事官によれば、「世界のMICE主催者団体はMICEを持続可能な社会や開催地でのレガシーの創出にいかにつなげるかを意識するようになっており、今こそTogether for the better world のようなコンセプトで、MICE関係者も各地でMICEを通じた交流を持続可能な社会づくりや次世代の育成などに活かしながら、SDGsの先の未来の世界を展望する2025年大阪・関西万博の機会も見据えて取り組むような企画があっても良いのでは」とお話されていました。次号では、MICE ☓ SDGsについて具体的な取組方法や事例、定性・定量分析などを用いた効果測定の仮説などをご紹介する予定です。

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